試験所ミニ知識

試験業務のなかで遭遇した、参考になる事例を紹介します。

1.精製水中の細菌

精製水に細菌があってもいい? 

「精製水」の一般的な用途は、コンタクトレンズの洗浄、自家製化粧水の製造、薬局の調剤、在宅酸素の加湿などに使用されています。ところで、平成23年以前の旧日本薬局方(医薬品の規格書)では精製水に一般細菌の規格がありません。また、規格ができた現在でも、1mL中に200cpu(細菌の塊の単位)まで細菌があってもいいことになっています。これは精製水が必ずしも無菌ではないことを意味しています。
当会で継続的に市販の精製水(未開封)を検査したところ、ごく一部の製品に一般細菌が検出されました。

どうしたらいい?

このような製品が販売される可能性は、今後、低くなるでしょうが、それでも開封後には、汚染や細菌の増殖が起きる可能性があるので、開封後は冷所に保管して短期間で使用することが肝要です。
ちなみに、試験所の実験では、開封後の精製水200mLをガラス容器に入れ、電子レンジ(500w)で2分間加熱したところ、細菌数がゼロになりました。

2.分包機のコンタミネーション(汚染)

他の薬が交じっちゃうの?

散薬(粉薬)の調剤では、お渡しする薬のお薬ごとに全部の量の重さを量って、混ぜた後に分包機を使用して、一回飲む量に分けて包む(分包する)作業を行います。
分包作業では、どうしても分包機内に薬剤が付着することが避けられないので、次の調剤でコンタミネーション(少量の薬剤による汚染)が起きる可能性があります。
特に、くっつきやすい医薬品、アレルギーの原因となりやすい医薬品、少量でも作用の強い医薬品を分包した後には、十分な清掃が必要です。
このような場合、薬局の現場では、重曹などを使用して分包機内部の残薬を吸着させるなどの措置が行われています。

他の薬の交じりをなくすために

当会衛生試験所では、テオフィリン製剤をサンプル資料として希望する薬局で分包してもらい、分包後のテオフィリン残留量をHPLCで定量して、その薬局のコンタミネーションの程度を調べています。
また、重曹吸着の清掃の効果や、使用する重曹量などについて検討を行い、会員薬局がより適切な調剤を行うための情報としてお知らせしています。

3.お茶と薬

事件です!薬を溶かしたら、真っ黒になった

飲み込みが悪くて、錠剤やカプセルをそのままでは飲めない患者さんの場合、錠剤やカプセルを粉砕し、水に溶かして飲んでいただくことがあります。
ある日、介護者の方から「処方薬を水に溶かしたところいつもと色が違う」「いつもは色なんてないのに、今日は真っ黒!」調剤を間違えたのではないか?とのクレームが薬局にありました。薬局では、いつも通り正確に調剤した記録になっています。
でも、薬の色が違うのですから納得していただけません。

真っ黒 の 原因は...お茶

薬局から当会試験所に変色原因の調査依頼があり調べた結果、処方にはない鉄成分が検出されました。たぶん直前に分包した鉄剤が、少量混じったためでした。
次は、変色の原因究明です。鉄剤と反応して着色するものは、配合された主成分にはありません。ならば、医薬品に加えてある少量の添加剤のうち、着色しそうなもの(没食子酸プロピル)との反応を疑いました。少し紫がかった着色をしたのです。
しかし、状況を詳しく確認すると、薬をお茶に溶かしたとのこと。
結論は、混入した鉄剤とお茶が、鉄タンニン反応を起こして真っ黒になったという次第でした。
薬局では、分包機の清掃の重要性を改めて感じた事例でした。
介護者の方にも、お薬は水か白湯で飲んでください、という事例でした。

4.精密な秤と天気

天気が悪いと量れないってナニ?

当会試験所では、コンマ4桁(0.1mg 1gの1/10000の量)以下まで精密に量らなければならない時があります。現在は、精密電子天秤を利用していますが、台風などで気圧が急激に変化する時には、精密な計量が難しくなることがあります。
その理由は、空気の密度(1.2kg/m3)による「浮力」が影響するからです。例えば、1000hPa(ヘクトパスカル)の気圧で0あわせ(校正)した天びんを、気圧950hPaなどで使用すると、空気の浮力が小さくなるため実際よりも重い数値(精密測定レベル)が表示されてしまいます。

実際に起きる現象

東京上空に台風が通り過ぎる時には、気圧が大きく上下するので、0合わせをしていても、+0.1を示したり、-0.1を示したりで秤は安定しません。
そんな時は、台風が遠ざかってから測定をします。昔ながらの振り分け天秤であれば、左右のつり合いで判断をしますので気圧に影響されることはありません。
試験所で利用する機器の多くはハイテク電子機器ですが、時にはこんな欠点もあるわけです。